重要パーツにフォーカスし冷却強化と静音化を追求
PCの内部には多種多様な熱源がある。これらに適切な冷却を行なわないと内部温度がどんどん上昇し、さまざまな弊害を引き起こす。ほとんどのパーツは、危険な高温状態になる前に保護機能が働き動作を停止するため、高温になっただけで即故障するという事例はまれだが、半導体チップやコンデンサなど、温度依存性のある部品の寿命は確実に縮まっていくし、急な動作停止によってデータやファイルシステムが壊れるといった危険性は常にある。
また、そこまで危険な状態にならなくとも、性能面へ影響することは少なくない。たとえば、Intel CPUでは、動作クロックを上昇させるIntel Turbo BoostTechnologyは一定温度を超えると作動しないし、高温になっているときには動作クロックなどを下げるAdaptive Thermal Monitorといった機能もある。冷却が十分でないために本来の性能が発揮できず、気付かないうちに性能が低下しているといったこともあるわけだ。
冷却を強化するには冷却ファンの回転数を上げるのがもっとも手っ取り早いが、やみくもにやればファンが発する騒音が大きな問題となってくる。ファンの音がジャマでDVDやゲームなどのコンテンツの音が純粋に楽しめないとか、PCを起動すると家族や隣人からクレームが来るなどという事態は論外だが、そういった不都合がないレベルでも動作音が静かなほうが気分がよく、作業に集中しやすいのは間違いないところだろう。静音性もまたPCにとっては非常に重要な要素である。
つまり、冷却と静音性、この両者はトレードオフの関係にありながら、どちらも重要であり、どちらかをおろそかにしてよいものではない。冷却強化を進める際には実用的な静音性を、静音化を目指すなら十分な冷却の確保を、それぞれ意識しながら行なっていく必要があるだろう。幸い、最近はCPUをはじめとしたPCパーツ自体も性能だけでなく電力効率、省電力といった要素も考慮に入れて進化してきているだけに、冷却、静音、どちらの欲求もかなり高いレベルで満たすことが可能になっている。
本特集では、これらのことを踏まえた上で、冷却強化と静音化をテーマに、関連製品やノウハウを紹介していく。相反する関係にある要素とはいえ、どちらもPCの熱源、およびその冷却パーツと強い関連性があることでは共通しており、ここにフォーカスして進めていくことで効果的に対処することができる。このページではそれぞれのパーツの重要度についてまとめているが、次のページからはそれぞれについて検証も交えてより具体的な手法を取り上げている。冷却性能と静音性のバランスをどの辺りで取るかは個人個人で異なる部分になるが、納得のいくPCに仕立てるための参考になれば幸いだ。

今回、動作音の計測にはカスタムの騒音計「SL-1370」を使用している。30~130dBの範囲内で音量の計測が可能だ
PC冷却・静音化のポイント

CPUクーラー

重要度:高
CPUはPCシステムの中でも一、二を争う発熱源であるだけにそれを冷却するCPUクーラーの重要度は高い。交換作業が比較的容易な上、製品の選択肢が豊富で、冷却強化、静音性向上ともに確実な効果が見込め、バランス調整の自由度も高い。
ビデオカード

重要度:中
CPUと並ぶ大きな熱源だが、最近の製品はもともとの搭載クーラーの性能もよく、大型静音クーラー搭載製品なども多い。3D描画性能を求めないのであればファンレスカードやオンボードGPUを利用するなどの選択肢もある。
PCケース

重要度:高
冷却性能重視の開放型か遮音性重視の密閉型か、PCシステムのエアフローを司るPCケースは非常に重要な存在だ。パーツ単位の冷却強化や静音化を生かすも殺すもPCケースしだいと言っても過言ではないだろう。
電源ユニット

重要度:中
熱源としては、CPUとビデオカードに次ぐ存在だ。80PLUS Gold認証製品を筆頭に、最新製品の静音性や発熱の小ささはきわめて高いレベルにあるので、今使っている電源からの騒音が気になっているなら買い換えを検討する価値はある。
HDD/SSD

重要度:中
基本的に最近のHDDは発熱、騒音とも大きくないが、全体の静音化を進めると気になってくる部分である。HDD静音化ケースや、低速回転モデル、無音動作のSSDの導入など、選択肢もそれなりに多い。
ケースファン

重要度:高
回転速度を上げる(下げる)か数を増やす(減らす)か、吸気と排気ではどちらが重要か、ケースファンの攻略は冷却性能と静音性のバランスを取る上で大きなカギになる。

CPU自体にも注目
CPUクーラーやPCケースを工夫するにしても、もともと消費電力の低いCPUを選ぶほうが、余裕を持った冷却が可能で、静音化もスムーズに運ぶ。最近は高性能と省電力を兼ね備えたCPUも増えてきている。第1特集ではCPUの性能を、消費電力を含めて検証しているの参考にしてほしい。

静音性強化PC
動作音をPCケースから漏れにくくする密閉型のPCケースを使い、静音CPUクーラーを利用するなど静音重視のチューニングを行なった結果、アイドル時、高負荷時ともに約9dBの静音化を実現した。CPU温度はアイドル時で3℃、高負荷時で8℃上昇している。
冷却強化PC
メッシュパネルを採用した通気性のよいPCケースを利用して、冷却重視のチューニングを行なった結果、CPUの温度はアイドル時で3℃、高負荷時で2℃低下させることができた。その半面、動作音は2dBほど上昇した。
[標準状態]CPU:Intel Core i7-860(2.8GHz)、マザーボード:MSI P55A-G55(Intel P55)、メモリ:UMAX Cetus DCDDR3-4GB-1333(PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2)、ビデオカード:玄人志向 GF-GT240-E512HD/D5(NVIDIA GeForce GT240)、HDD:Western Digital WD Caviar Blue WD5000AAKS(Serial ATA 2.5、7,200rpm、500GB)、CPUクーラー:CPU付属品、電源:玄人志向 KRPW-V560W、PCケース:GMC J1、OS:Windows 7 Ultimate 64bit版
[静音性強化PC]標準状態から以下のものに変更、ビデオカード:GIGABYTE GV-R575SL-1GI(ATI Radeon HD 5750)、CPUクーラー:ZALMAN CNPS10X Perfoma、電源:Enermax PRO 87+ EPG600AWT、PCケース:アビー AS Enclosure 501
[冷却強化PC]標準状態から以下のものに変更、ビデオカード:MSI R5770 Hawk(ATI Radeon HD 5770)、CPUクーラー:Cooler Master Hyper 212 Plus、電源:サイズ ストロンガープラグイン 700W、PCケース:Thermaltake Armor A90
室温:約28℃、暗騒音:約32dB、騒音測定距離:ケース正面から約15cm、アイドル時:Windows起動10分後の値、高負荷時:3DMark Vantage終了直後の値