CPUクーラーの性能はもちろん重要だが、冷却性能と静音性のバランスの取れたマシンを目指すなら、PC全体に気を配るべきだ。むしろ、ビデオカードやマザーボード、HDDなどの冷却は、イマドキのPCを安心して使うために必須と言ってもよい。ここからはPC各部の冷却と静音化のためのポイントを見ていこう。
ケース |
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システムの安定動作と快適環境作りはケースの冷却システムがカギを握る |
マザーボードやビデオカードは、それぞれにヒートシンクやファンといった冷却機構を備えているが、それらを活かすためには新鮮な外気の取り入れ(吸気)と、発生した熱の放出(排気)によるケース内部の冷却が必要だ。しかし、その冷却のためにファンやダクトを増やすと、動作音や音漏れが大きくなってしまう。ケースにはそれぞれ特徴があるので、そのバランスや冷却性能の限界などを見きわめたいところである。ここでは冷却重視や静音向けといった性格の異なる6製品をチェックしてみた。
見た目と装備で分かるケースの性格の違い

ファンを増やして冷却を強化
ケースファンを増やせば内部の冷却性能はアップするが、動作音は大きくなる。一方、大口径ファンが低速回転するケースなら静かに使える

開口部を減らして静音性を強化
静かなPCを目指すなら、ダクトなどの少ない、密閉性の高いケースを使えば有利だ。しかし、その分内部温度は高くなる傾向にある
【検証環境】CPU:Intel Core i7-860(2.8GHz)、CPUクーラー:CPU付属品、マザーボード:ASUSTeK Maximus III Gene(Intel P55)、メモリ:UMAX Cetus DCDDR3-4GB-1333(PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2)、ビデオカード:MSI R5770 Hawk(ATI Radeon HD 5770)、HDD:Western DigitalWD Caviar Blue WD10EALS(Serial ATA 2.5、7,200rpm、1TB)、電源:玄人志向 KRPW-V560W(560W)、OS:Windows 7 Ultimate 64bit版
【検証内容】検証環境に示したパーツを各ケースに組み込み、HWMonitor 1.16にて各部の温度を計測。動作音はそれぞれケース正面から20cmで計測。アイドル時はOS起動から10分後の値、高負荷時はPCMark Vantage Build 102のGaming Suiteを2回実行した際の最高値。暗騒音は32dB。室温26.8℃。[各部の値]CPU:もっとも大きいCoreの値、チップセット:SYSTINの値、ビデオカード:GPU Coreの値、HDD:HDDの値
密閉性を高めたスタンダードミドルタワー
- ATX
- ブラック
- Antec
- Sonata Proto
- 実売価格:8,000円前後
- 問い合わせ先:03-5812-5820(リンクスインターナショナル)
- URL:http://www.antec.com/


厚みのあるスチールケースに、防振ゴム付きシャドーベイなどを備えた、エントリーユーザー向けモデル。標準ケースファンは背面1基のみだが、スイッチで2段階の回転数制御が可能となっている。開口部が少ないので静かなケースではあるが、やはり熱はこもりやすい。ファンの回転数を上げると多少改善されるが、犠牲にした静音性ほどの冷却性能とは言い難い。

着脱可能なシャドーベイは、防振ゴムを介してHDDをネジ止めする。また、シャドーベイ裏には12cm角ファンが増設可能

付属の背面12cm角ファンは、2段階の切り換えスイッチ付き。なお、動作時は内部の反響音が感じられるので、吸音シートなども活用してみたい
付属電源:なし●ベイ:5インチ×3、3.5インチ×2、3.5インチシャドー×4、2.5インチシャドー×1●標準搭載ファン:12cm角×1(背面)●追加搭載可能ファン:12cm角×1(シャドーベイ裏)●本体サイズ(W×D×H):216×470×430mm●重量:7.5kg
多彩なファンレイアウトで各部を冷却
- ATX
- ブラック
- Cooler Master
- CM690II Plus
- 実売価格:14,000円前後
- 問い合わせ先:support@cm-industry.co.jp (CMインダストリー)
- URL:http://www.coolermaster.co.jp/


標準で前面、背面、天板にファンを備えるだけでなく、各部にファン増設が可能という冷却重視のミドルタワー。今回のテストでもまんべんなく各部が冷えているのが分かる。開口部が多い分、高負荷時の動作音はそれなりだが、安定動作とのトレードオフとしては満足のゆく性能だ。ミドルレンジのパーツ構成で使えば、内部空間にもかなり余裕があり、作業性も上々である。

前面にはブルーLED内蔵の14cm角ファンを搭載。シャドーベイ下段を取り外して、水冷ラジエータを搭載することも可能

天板のほか、マザー裏(CPUの背面)、左サイドパネルなどにもファンを増設可能。マザー裏に増設する8c m角ファンは厚みが15mmまでに限定される
付属電源:なし●ベイ:5インチ×4(5→3.5インチ変換アダプタ×1)、3.5インチシャドー×6(3.5→2.5/1.8インチシャドー変換アダプタ×1)●標準搭載ファン:14cm角×1(前面)、12cm角×1(背面)、12cm角×1(天板)●追加搭載可能ファン:12/14cm角×1(天板)、12/14cm角×1、12cm角×1(底面)、8cm角×1(右側面、15mm厚まで)、12/14cm角×2(左側面)●本体サイズ(W×D×H):214.5×528.8×511.8mm●重量:約9.19kg
精度の高いギミックを備えるフルアルミケース
- ATX
- ブラック/シルバー/レッド
- Lian Li
- PC-8FIA
- 実売価格:23,000円前後(スパイダーエディションのレッドは34,000円前後)
- 問い合わせ先:03-5298-3880(ディラック)
- URL:http://www.lian-li.com/


アルミによる放熱効果にも期待できる、Lian Liの最新スタンダードモデル。各部に精度の高いパーツ固定ギミックを備えるほか、天板にもファン増設が可能。三つの標準搭載ファンはいずれも1,200rpmで、冷却性能と静音性のバランスなら、今回の中でトップと言ってよいだろう。ビデオカードの長さは28.5cmまでだが、ミドルレンジ構成で使うなら買って損はない。

12cm角ファンを前面に2基、背面に1基標準装備。前面は二重メッシュで防塵フィルタのメンテナンスも簡単だ

天板ダクトは標準でふさがっているが、メッシュパネルに交換も可能。こうしたケースは意外に少なく、貴重な存在である
付属電源:なし●ベイ:5インチ×3(5→3.5インチ変換アダプタ×1)、3.5インチシャドー×6●標準搭載ファン:12cm角×2(前面)、12cm角×1(背面)●追加搭載可能ファン:14cm角×1(天板)●本体サイズ(W×D×H):210×490×460mm●重量:5.85kg
幾何学デザインのゲーマー向け冷却重視ケース
- ATX
- ブラック
- Thermaltake
- Armor A90
- 実売価格:15,000円前後
- 問い合わせ先:Thermaltake info.jp@thermaltake.com(日本サーマルティク)
- URL:http://www.thermaltake.co.jp/


独特のデザインが目を引く、ユニークなミドルタワーケース。内部は意外にスタンダードな構成だが、前面と背面、天板にファンを備えており、そのうち前面と天板は4ピンペリフェラルコネクタ接続の一定速タイプとなっている。そのため、動作音はそれなりでも、音の変化が少ないのは○。CPUクーラーを高性能なものにすれば、よりバランスのよいマシンに仕上がるだろう。

前面の12cm角ファンは20cmの大型ファンに交換することも可能。ドライブベイはすべてツールフリーだ

天板ファンには20cmの大型ファンを搭載。ケースファンそのものは静かだが、全体的にダクトが多いため、音漏れは大きめである
付属電源:なし●ベイ:5インチ×3、3.5インチ×1、3.5インチシャドー×6、2.5インチシャドー×1●標準搭載ファン:12cm角×1(前面)、12cm角×1(背面)、20cm×1(天板)●追加搭載可能ファン:12cm角×1(前面)、20cm角×1(前面、12cm角×2と排他利用)、12cm角×1(側面)●本体サイズ(W×D×H):210×515×502mm●重量:8.2kg
独自エアダクトで静かに内部を冷却
- ATX
- ブラック/シルバー
- アビー
- AS Enclosure 501
- 実売価格:30,000円前後
- 問い合わせ先:045-306-6686
- URL:http://www.abee.co.jp/


一見おとなしめのアルミケースだが、SID(SmartIntake Duct)と名付けられた独自吸気口を前面下部に備えている。その分ベイは少ないものの、内部はゆったりと作られているので扱いやすい。ただ、今回使用したビデオカードの場合、斜めから風を当てると効果が薄いのか、逆に温度が上がってしまった。静音性やエアフローは間違いないので、角度を煮詰める必要がありそうだ。

前面底部から吸気し、二つのファンで内部に空気を送り込む「SID」。角度調節が可能なので、パーツ構成に合わせたアレンジが可能

前面の防塵フィルタだけでなく、ファンユニットごと着脱も可能。搭載する「NANO TEK FAN」や、マザー裏の配線など、扱いやすさも魅力の1台
付属電源:なし●ベイ:5インチ×3、3.5インチベイ×1、3.5インチシャドー×4●標準搭載ファン:12cm角×1(前面)、12cm角×1(背面)、12cm角×1(内部)●追加搭載可能ファン:12cm角×1(シャドーベイ前)●本体サイズ(W×D×H):219×484×459mm●重量:約8.1kg
600W静音電源付属の低価格汎用モデル
- ATX
- ブラック/ホワイト
- サイズ
- GUSTAV600
- 実売価格:10,000円前後
- 問い合わせ先:support@scythe.co.jp
- URL:http://www.scythe.co.jp/


1万円前後で電源付きという、サイフにやさしいミドルタワーケース。ベイがすべてネジ止めなど、価格なりの部分はあるものの、前後に12cm角ファンを装備。この2基のファンは一定速で、風量は十分。加えて、付属電源も静音と言いつつかなりのエアフローを備えているので、冷却性能は何と今回トップクラスである。動作音は大きいが、冷やしたい人には非常に頼もしい1台。

前後の12cm角ケースファンは、4ピンペリフェラルコネクタ接続の一定速タイプ。音漏れは大きめのケースだが、動作音の変化は少ない

静音をうたう600W電源が付属するが、これはどちらかと言うと冷却重視。検証結果でも、CPUまわりがもっともよく冷えている
付属電源:600W●ベイ:5インチ×4、3.5インチ×1、3.5インチシャドー×4●標準搭載ファン:12cm角×1(前面)、12cm角×1(背面)、●追加搭載可能ファン:8/9cm角×1(前面、標準搭載ファンとは排他)、8/9cm角×1(背面、標準搭載ファンとは排他)、8/9/12cm角×1(側面)●本体サイズ(W×D×H):180×450×418mm●重量:6.16kg