CPUクーラー選びでは相反する要素のバランスが重要
冷却パーツの中でも、重点を置いてチェックしたいパーツの一つがCPUクーラーだ。その理由は、まず静音性の問題。CPU付属のリテールクーラーでもある程度の冷却性能は期待できるが、CPU温度が上昇するとファンの回転数が上がり、動作音がうるさくなることがある。対して単体販売されているCPUクーラーであれば、冷却能力が高いため、回転数が上がりにくい(=動作音が大きくなりにくい)のだ。
また、性能面でも単体販売品は有利となる。とくに最新CPUでは、一定以上の温度になると、IntelのTurbo BoostやAMDのTurboCOREといった高速化機能が一時的に無効化される。実質、クーラーの冷却能力の高さが、CPUのパフォーマンスにまで影響するのだ。
さて、単体CPUクーラーを購入する際には、チェックしたいポイントがいくつかある。注意したいのは、これらのうちのいくつかが相反する性質を持つ点。
たとえば、ファンの回転数は高ければ高いほど冷却能力は増すが、静音性が下がる。また、ファンの口径やヒートシンクの大きさは大きければ冷却能力は増すが、取り付けやすさという点では不利となる……という具合だ。
以下の最新製品解説では、こうした製品ごとのバランスをレーダーチャートで評価している。それに加え、CPUに負荷をかけたときの温度変化のグラフもあわせて掲載している。
CPUクーラー購入時のチェックポイント
[1]ファン口径・回転数

ファンの口径が大きいほど風量が増し、冷却能力で有利だ。回転数は高ければ冷却能力は増すが、静音面では不利になる。バランスが取れているのは12~14cm角で、最大1,500rpm前後のものだ
[2]ヒートパイプ

ヒートシンクのフィン(放熱板)に熱を伝えるための部品。太く、本数が多いほど冷却能力で有利。最新製品では、さらに冷却能力を上げるべく、CPUに直接接触するタイプ(左)が増加している
[3]取り付けやすさ

最新のCPUクーラーで重要な点。基本的には小型の製品が有利だが、大型製品でも周辺パーツとの干渉を少なくする形状や、付属リテンション(支持器具)の工夫などでの改良がなされている
[4]ヒートシンクの大きさ

大きければ冷却能力では基本的に有利になる半面、周辺のパーツと干渉する可能性が高まり、取り付けにくくなる。さらにPCケースによっては入らないこともあるため、慎重に検討したい
取り付けの際はCPUクーラーの向きに注意
最新CPUクーラーではファンの風がマザーボードと水平に送られる「サイドフロータイプ」が主流になっている。このタイプのクーラーを使う際に注意したいのが、取り付ける際のファンの風向き。取り付け方を間違うと、ケースの内部に熱を送ってしまい、かえって逆効果になることさえあるからだ。
基本的には背面のケースファンから熱を排気すべく、「ファンの風向きをケースの背面側にする」のが一般的だ。
また、製品によっては、重力の影響により、設置する方向でヒートパイプの性能が左右されるものがある。ヒートパイプ搭載製品はマニュアルをきちんとチェックしながら取り付けるとよいだろう。

CPUクーラーを取り付ける場合は、必ず風の方向を確認し、排気するファンに向けて装着するというのが一般的だ
ファンを内部に搭載した大型サイドフロークーラー
- 12cm径ファン
- PWM制御
- 独自リテンション式
- Antec
- KUHLER-BOX
- 実売価格:5,000円前後
- 問い合わせ先:03-5812-5820(リンクスインターナショナル)
- URL:http://www.antec.com/

対応CPUソケット:LGA775/1156/1366、Socket AM2/AM3
ファン:12cm径×1(700~2,000rpm)
本体サイズ(W×D×H):130×120×150mm
重量:815g

ヒートシンクの中央に12cm径のファンを搭載する、サイドフロータイプのCPUクーラー。このファンの位置は、ファンの前後に発生するエアフローをムダなくCPUの冷却に使うことを狙ったもの。取り付けやすさに関しても、ネジを回すためのレンチが付属する点や、部品の袋にソケット名が記載されるなど、ライバルにはない工夫が取り入れられている。今回は残念ながら静音性や冷却性能では他製品に一歩譲る結果となったが、こうした工夫が光る製品だ。

CPUに負荷がかかると約47℃まで上昇する。ファンの回転数の上昇が激しい印象だ

ファンが中央に搭載される独特のレイアウト。側面には半透明のカバーが装着され、メカニカルな印象を演出している

着実な取り付けを配慮したためか、アタッチメントの種類はかなり多い。ネジもIntel用とAMD用で別に用意されている
冷却性能と静音性とのバランスに優れる定番モデル
- 12cm角ファン
- PWM制御
- 独自リテンション式
- Cooler Master
- Hyper 212 Plus
- 実売価格:4,500円前後
- 問い合わせ先:support@cm-industry.co.jp (CMインダストリー)
- URL:http://www.coolermaster.co.jp/

対応CPUソケット:
LGA775/1156/1366、Socket AM2/AM3
ファン:12cm角×1(600~2,000rpm)
本体サイズ(W×D×H):79.7×120×158.5mm
重量:626g

CPU直接接触式のヒートパイプを採用するサイドフロータイプのクーラー。冷却性能と静音性の双方に優れ、とくにアイドル時の静音性は非常に優秀だ。取り付けに関してはバックプレートを含めて交換する必要があるため、工数は多いが、クーラー側の取り付け金具の角度を自由に変えられるなど、取り回しをよくするための工夫が見られる。総合性能は現在もトップクラスの一品だ。

負荷による上昇は約40℃に抑えられている。この価格帯の製品としては非常に優秀と言ってよい

優れた静音性を実現しているのは、ファンの最小回転数で、600rpmと低い。ブレード(羽根)の形状にも静音化の工夫が見られる

ポイントはクーラー側のアタッチメントの形状。中心部を軸に回転させて角度を変えられるため、装着時の作業性が高い
低価格ながら静音性が優秀な水冷CPUクーラーの注目株
- 12cm角ファン
- PWM制御
- 独自リテンション式
- CoolIT Systems
- The ECO Advanced Liquid Cooling
- 実売価格:9,000円前後
- 問い合わせ先:03-5215-5650(アスク)
- URL:http://www.coolitsystems.com/

対応CPUソケット:
LGA775/1156/1366、Socket AM2/AM3
ファン:12cm角×1(非公開~1,800rpm)
本体サイズ(W×D×H):60×48×30mm(水冷ヘッド部)、120×155×25mm(ラジエータ)
重量:約1kg

ラジエータ(放熱器)とポンプ部を一体化した、水冷タイプのCPUクーラー。大型のラジエータで効率的に放熱が可能という水冷式のメリットを活かし、高負荷時でもファンの動作音が静か。さらに本機は水冷式クーラーの弱点とも言えるポンプ音も小さい。取り付け作業は、ポンプとラジエータを結ぶチューブの取り回しがめんどうだが、リテンションの取り付けなどはスムーズにできる。高性能かつ静かなPCを狙うには好適な製品である。

CPUに負荷をかけても約42℃までの上昇に抑えられており、冷却能力は上々

水冷式はファンの音は静かだが、逆に空冷にはないポンプの動作音が発生する。本機のポンプは非常に静かで、優秀だ

Intel CPU用の本体側のリテンションは共通だが、バックプレートは3種類が付属するおもしろい仕様だ。取り付けはスムーズ
水冷CPUクーラーの人気を押し上げた定番製品
- 12cm角ファン
- PWM制御
- 独自リテンション式
- Corsair Memory
- CWCH50-1
- 実売価格:10,000円前後
- 問い合わせ先:03-5812-5820(リンクスインターナショナル)
- URL:http://www.corsairmemory.com/

対応CPUソケット:LGA775/1156/1366、Socket AM2/AM3
ファン:12cm角×1(非公開~1,700rpm)
本体サイズ(W×D×H):約70×70×60mm(水冷ヘッド)、約120×25×150mm(ラジエータ)、
約120×25×120mm(ファン)
重量:約700g

ラジエータ・ポンプ一体型の水冷CPUクーラー。2009年10月に登場し、現在でも人気の高い製品。水冷クーラーの利点であるファンの静かさを活かしつつ、ハイエンドCPUにも十分対応できる冷却能力を備える。ポンプ音自体は比較的小さいが、試用機ではときどきカン高い音がする点が気になった。しかし、ファン音と冷却能力のバランスは良好。高い人気にふさわしい実力を持った製品と言える。

約43℃まで上昇する。上のThe ECO Adavanced Liquid Coolingにはやや劣るが十分な性能だ

この製品のラジエータはファンを吸気方向で取り付けることで性能を発揮する。装着時にはファンの向きに気を付けたい

アタッチメントはIntel CPU用と、AMD CPU用が付属。取り付けマニュアルは図が大きいが説明文がないので、しっかり見て作業しよう
強烈な存在感を発揮する高級CPUクーラー
- ファン別売り(14cm角対応)
- 独自リテンション式
- Prolimatech
- Armageddon
- 実売価格:8,000円前後
- 問い合わせ先:support@scythe.co.jp(サイズ)
- URL:http://www.prolimatech.com/

対応CPUソケット:LGA1156/1366
ファン:なし(別途14cm角/ 25mm厚ファンが必要)
本体サイズ(W×D×H):144×50×160.3mm(ヒートシンクのみ)
重量:750g(ヒートシンクのみ)

14cm角/25mm厚ファンに対応するサイドフロータイプの高級CPUクーラー。対応するソケットはLGA1156/1366の2種のみ、かつファンが別途必要になるなどクセは強いものの、各所の仕上げの精度の高さや実際の性能はそれを補う説得力を持つ。今回の評価は1,200rpmの「Xinruilian RDL1425S」を装着し、取り付けには同社のAMD用リテンション「ARM-01」を改造して装着したため、参考記録としてほしいが、静音性・冷却性能ともに優秀だ。

負荷をかけても40℃を超えないという非常に優秀な冷却性能を発揮している

CPUとの接触部の仕上げは非常にていねい。ヒートパイプの配置などもきれいに仕上がっている

対応ソケットが2種類しかないものの、密着度を高くするOリングなど、付属部品が多いのが特徴。加工精度は高い
【測定条件】暗騒音:39dB、室温:29℃、騒音測定距離:ファンから約5cm、アイドル時:OCCT Perestroika 3.1.0起動5分後(無稼働)、高負荷時:CPU Test を15分実行後、チップセット温度:North Bridge部直上を非接触式温度計にて測定、いずれもバラック状態で計測
【グラフ検証内容】OCCT Perestroika 3.1.0で高負荷時のCPU1 Temperature(CPUコア1の温度)とCPU Usage(CPU使用率)を計測。縦軸、横軸のスケールはグラフにより異なる