とにかく信頼性を考えた国産高級ATX電源
- 玄人志向
- KRPW-N1000P/88+
- 実売価格:40,000円前後

- このパーツはこう使え!
- ・性能、信頼性、安全性すべてに妥協したくないユーザーに
- ・長時間連続稼動させる信頼性が求められるシステムに
Specification
定格出力:822W
ファン:8cm角×1
電源コネクタ:ATX24ピン×1、EPS12V×1、ペリフェラル×5、Serial ATA×6、PCI Express 6+2ピン×2、PCI Express 6ピン×2、FDD×2サイズ(W×D×H):150×190×85mm
ライター Ta 152H-1
辛口レビューには理由がある

設計でも実装でもシンプルでスマートなものが好き。リファレンス設計は最高の設計ではないので、カスタム製品にはそれを超える何かを実現してほしい。
本製品はニプロンが製造/販売している「HPCSA-1000P-E2S」に別売りのケーブルをセットにし、玄人志向ブランドとして販売している製品だ。ピーク出力は1,000W。連続定格出力は822Wとなっていて、80PLUS Silver認証を取得している。玄人志向が手がけることにより全国の量販店などでも入手可能になった。なお、ニプロンのWeb直販でも「HPCSA-1000P-E2S-MN」の型番で同様のケーブルセットモデルが販売されているが、こちらは本製品よりも付属ケーブル数が若干多く、価格もやや高いという仕様だ。
ニプロンは産業用のPC用電源を手がけている。産業用の電源は一般用途より劣悪な環境下での動作を求められ、信頼性や安全性に重点が置かれている。そのノウハウを活かし、産業用電源と同レベルの高信頼性を実現した一般向けATX電源として製品化されたのが本製品だ。十分な大出力を備えながら、産業用の電源製品で培った技術で設計、製造された「壊れない電源」を標榜し、信頼性の高さをウリにしている。
定格出力は822W

型番が1000なので勘違いしやすいが、定格出力は822Wで、ピーク出力が1,000W。+12Vは4系統でマルチGPU構成にも対応できる大出力だ
電圧安定性は十分

まったく変動がないというわけではないが、応答の追従性や出力安定性には問題は見られない。大きな負荷が加わったときに設計の許容範囲内で電圧が低下するのは正常な動作だ

必要十分な数のケーブルを同梱
本製品はプラグインケーブルのバラ売りも行なわれているが、最低限必要な数のものは同梱されている。細かいことだがACケーブルが付属してない点には注意
ここがマニアック

モジュール化された内部構造
一般的なATX電源とは違い、1次側、2次側、制御部でモジュール化されたガラスエポキシ基板が使われ、内部配線にはほとんどケーブルが使われていない。整然と回路、部品配置をまとめるのはエアフローの確保に役立つし、実装設計においては大切なことだ
効率向上を目指し、従来の回路と新しい回路のハイブリッド構成を採用
実際の設計に目を向けてみよう。KRPWN1000P/88+は電圧モード制御のルネサスエレクトロニクス M51995AFP PWMコントローラを採用し、スイッチング素子はPowerMOSFETとなっている。PC用電源の効率は2000年代前半までは70%前後の製品がほとんどだったが、最近は、新しい回路設計とデバイスの採用で急激に向上している。M51995AFPによる制御回路自体は同社製品ではよく採用されているタイプのフォワードコンバータで、とくに新しいものではないが、2次側の整流回路はトランスからはDC12Vのみを生成し、そこからDC-DCコンバータ使ってDC5VとDC3.3Vを出力する最近流行のタイプだ。また2次側の整流回路にはダイオードではなくPower MOSFETを使った同期整流を行なう、最新の回路設計を採用している。
一般的な家電製品と比較して、不規則な負荷変動の大きいPC用電源には不確定要素が多いため、スイッチング回路にはできる限り実績ある回路方式を採用し、それ以外の部分で効率向上を目指すのはよい選択肢の一つである。
AD/DCコンバータ内部で損失の大きなデバイスが2次側の整流ダイオードである。電圧が下がり、大きな電流が流れる2次側の整流回路はなるべく損失を減らしたい場所だ。本製品ではここにPower MOSFETによる同期整流回路を組み込むことで、効率の向上に大きく寄与している。
内部基板全景

1次側回路の基板(左側)と2次側回路の基板(右側)、それらをつなぐ制御回路基板(1次側回路基板にハンダ付けされている)で構成されている。普通のPC用電源の基板の倍以上の面積のガラスエポキシ基板はコストアップの要因でもあるが、回路実装には余裕があり、這い回るケーブルが部品を圧迫するような実装はない

1次側:スイッチング回路/PFC回路
スイッチングにはPower MOSFETが使われている。左側はPFC回路、右側はスイッチング回路であり、どちらも同じ型番のPowerMOSFETが使われている

IR IR1150ISPFCコントローラ
PFCの制御用IC。最近はPFC/PWM 両対応コントローラも多いが、本製品では信頼性を重視し、実績のあるICを使った、独立PFCコントローラを採用している

1次側:平滑コンデンサ ルビコン VXH 450V330μF×2
1次側の平滑回路用のコンデンサの容量は電源の出力によって決まる。小容量にすればリプルノイズが増えるし、ムダに大きな容量を使えばコストアップになる

ルネサス エレクトロニクスM51995AFP PWMコントローラ

ルネサス エレクトロニクス M51958B電圧検出システムリセットIC
PWM コントローラと、OVP(過電圧保護)のためのIC。PWMコントローラは流行の電流モード制御、ZVS制御といった機能はないが、Power MOSFETを使ったフォワードコンバータを構成する

2次側:出力回路 DC5V/DC3.3V/DC竏驤12V

2次側:出力回路 DC12V
DC5V/3.3Vは別モジュールを用意し、そこで生成している。手前の小さな基板はDC竏驤12Vを生成している。トランスから直接マルチ電圧出力をするよりクロスレギュレーションを減らすことが可能

2次側:同期整流回路

2次側:同期整流回路 PowerMOSFET IR IRFB3077G
電源の効率を上げるためには、損失を減らすことが必要になる。損失の小さいデバイスを採用するのは効果的で、同期整流のために専用コントローラを追加してもトータルでは損失を減らすことが可能

プラグインケーブルの接続端子
電源筐体内部の2次側の出力をすべて基板パターン上に実装。内部でケーブルを使わないこの電源は、メイン出力やCPU12Vもプラグインで実装している。左端のコネクタには電源内部状態のモニタリングやファン制御の信号線が出ている

真のハイエンドを求めるユーザーに
出力が安定しているという点で性能は必要十分。信頼性を重視した結果、効率面や静音性では最近の電源に見劣りする部分があるが、信頼性や安全性については普通のPC電源より一歩進んだものとなっている。それらを勘案してのコストパフォーマンス的な評価はあえて割愛したい。
【問い合わせ先】 玄人志向:購入店舗にて対応/ http://kuroutoshikou.com/
【検証環境】 CPU:Intel Core i7-965 Extreme Edition(3.2GHz)、マザーボード:ASUSTeK P6T Deluxe V2(Intel X58+ ICH10R)、ビデオカード:AMD Radeon HD 5870リファレンスカード、メモリ:Corsair Memory TR3X6G1333C9(PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×3)、HDD:日立GST Deskstar 7K1000.C HDS721050CLA362(Serial ATA 2.5、7,200rpm、500GB)、OS:Windows 7 Ultimate 64bit 版、室温:22℃、電圧測定時負荷:3DMark Vantage実行中