1.電源を入れる前につまずくな!
パーツ同士の干渉に注意する
Mini-ITXケースは基本的に狭い!
Mini-ITX環境においても、リテールCPUクーラーや、リファレンスタイプのビデオカードなどを使って、素直に組めばパーツが入らないというケースは少ないが、冷却のためにCPUクーラーなどをちょっと冒険しようとすると、シャーシや電源と干渉して取り付けられないことがよくある。また、ATX電源が搭載可能とされていても、奥行きが長めのものだと取り付けられないこともある。さらには、電源ケーブルなどを取り回すスペースがないので、ムリヤリ押し込むことになったり、そのケーブルが干渉して、冷却ファンが回らなかったり、などということも少なくない。大型ビデオカードが搭載可能とされているケースでも、ビデオカードクーラーが独自形状のもののなどでは、意外なところで引っ掛かることもある。油断せずに奥行きやケーブルの取り回し経路などをチェックしておきたいところだ。
実際のところ、組んでみるまで分からないこともあるので、一部のパーツショップが行なっているパーツ交換保証(購入時に一定の料金を支払うことで、相性などの不具合があった際に、ほかのパーツとの交換を受け付けてくれるサービス)なども、積極的に活用することをお勧めしたい。だが、そもそもムリなパーツの詰め込みはMini-ITXマシンでは禁物。とにかく小型のケースが欲しいというなら仕方ないが、同じパーツをワンサイズ上のケースで使えば、それだけ作業性、冷却性に余裕が生まれるだろう。
大は小を兼ねる?
大きいケースのほうが内部に余裕があるのは当然だが、ATX電源を搭載するタイプなどは、大きいと言ってもどこかしら窮屈になる
ビデオカードは本当に入るか?
大型ビデオカードの搭載を考慮したケースでも、カードの長さや奥行きはよく確認しておく必要がある。電源の出力やケーブルにも注意が必要だ
電源はプラグインタイプが有利?
ケーブルがジャマならプラグインタイプの電源を使えばよいが、小型かつプラグインという製品は少ない。電源の本体サイズをよく確認しよう
使いたくても使えないことも
ケースが小型になればなるほど、特殊形状になればなるほど、パーツの干渉確率が高くなるのは理解しておきたい。マザーのチップセットクーラーや、メモリの配置などによっても干渉することがあるが、なかなか予測しにくいものだ。
マザーボードとケースの組み合わせによっては、取り付けられないCPUクーラーなども多い。購入前のシミュレーションは必要だ
悩ましいATX電源選びはSFX電源で解決?
ATX電源のサイズで悩むなら、小型のSFX電源をATX電源として活用する手がある。SilverStoneのSST-ST45SFなどには、標準でSFX→ATX電源変換アダプタが付属しているので、ATX電源代わりに使えば、かなり内部スペースに余裕を持たせることが可能だ。プラグインタイプのATX電源を使うよりも、間違いなく余裕ができる。ただし、電源出力の選択幅はいずれも小さめで、80PLUS Goldなどの高変換効率電源も選べない。一長一短はあるだろう。
Mini-ITXケースの奥行きギリギリまで占有するATX電源。これでも奥行きが短めのプラグインタイプを選んでいるのだが……
ケーブル楽々!
SFX電源を活用すればこのとおり。エアフローも改善されるし、何より作業がしやすいのがうれしい。購入時には電源のファンの向きなども確認しておこう
2.省電力構成でも侮ることなかれ
冷却はしっかりと
後で泣いても遅い!
収納するパーツの構成が同じであれば、ケースが小型になるほど各部の温度は高くなる傾向がある。低発熱な省電力CPUだからと言って、冷却を怠れば、当面は問題なく動いていても、その寿命は間違いなく短くなるのだ。また、CPUやチップセットなどはもちろん、冷却ファンもないのに、HDDを狭い場所に押し込めるような構造になったケースや、HDD同士の間隔がほとんどないようなケースにも注意が必要だ。メインマシンとして使うなら、ある日突然HDDが壊れました、ではすまされない。マシンの現状をよくチェックしておこう。
各部の温度をチェック
Mini-ITXマシンを組み立てたら、まず確認したいのが各部の温度だ。フリーソフトのHWMonitorなどを利用するのが手軽でよいだろう。多くの場合、ATX環境と比べて、その温度の高さに驚くのではないだろうか。エアフロー的に不利な小型ケースでは、ファンを搭載しても熱だまりが残ることがあるので、温度のチェックが必要だ。後で紹介している熱対策とセットで考えてほしい。
HWMonitorでは、各部の温度の最大値と最小値が確認できる。最大で80℃を超えるような値が出ている場合は、かなり危険だ
■ムリなファンレスは禁物!
ファンレスマザーをコンパクトなケースに入れて、ACアダプタ電源で無音PCを構築!というのは実に楽しそうだが、実用を考えるならそれなりの温度対策は必要だ。下のグラフを見ても分かるとおり、ケースファンを持たないacubic S10では、CPU温度が高負荷時で80℃弱と、かなり不安な値が出ている。HDDも60℃オーバーと高めである。それでも確かに動作はしているのだが、やはり好ましい状況ではない。ファンレスにこだわるなら、ケースの交換も検討するべきだろう。
それなりのエアフローが確保されていれば問題ないが、対策なしに放熱に頼るだけなら、ケースに入れないほうがマシかもしれない
■リテールCPUクーラーを交換する
手っ取り早い冷却と言えば、CPUクーラーの交換。ケースにファンが増設できなくても、こちらは交換できる可能性が高いはずだ。サイズのBig Shurikenなどの場合、CPU周辺のパーツにも風を送ることができるのは大きなメリットである。ほかのパーツとの干渉で取り付けできないこともあるだろうが、薄型の小型CPUクーラーはほかにも存在するので、試してみる価値は十分にある。後で交換するのはめんどうなケースも多いので、最初から考えてみてはどうだろうか。
Big Shurikenは薄型の12cm角ファンを搭載。取り付けはマザーをケースに入れる前に行なうのがお勧めだ
■できる限りファンを増設する
ハイエンド構成対応をうたう製品の中には大型ケースファンを搭載しているものもあるが、ファンを搭載していないMini-ITXケースも少なくない。価格的な要因もあるだろうが、取り付け可能なダクトがあるのに、ファンが付いていないのはちょっと気になるところだ。そうしたケースは省電力パーツ向けと見ることもできるが、ファンレス仕様になった省電力マザーは、基本的にケースファンによる冷却を前提としているものがほとんどである。静音性は下がるかもしれないが、ファンが取り付けられるなら、ぜひ装着をお勧めしたい。
なかにはまったくファンが取り付けられないものもあるので、そこは購入時に把握しておくべきであるが、スロットクーラーを使うといった逃げ道もなくはない。また、アルミケースなどの場合、全体がヒートシンク代わりということもあるので、表面に風を当てるとまではいかなくても、周囲の空間くらいは確保しておきたいところである。
ちょっと大きなケースなら、12cm角ファンが取り付けられるものもある。6cm角程度の小型ファンでも、あるとないとでは内部温度がかなり違う
拡張スロットを冷却に活用
- アイネックス
- スロット取り付け型PCシステムクーラー
- 実売価格:1,000円前後
拡張スロットに取り付けるシロッコファン(排気用)。これもまた周囲のパーツとの干渉が気になるアイテムではあるが、背に腹は代えられない
このケースではHDDと一部接触しているが、装着は可能。ケースによってはかなり有効なアイテムである
3.内か? 外か? 内部は最後の手段?
拡張スロットには本当に必要なものを
あえて使わないという選択肢
コンパクトなゲーム専用機は大きな魅力があるが、Mini-ITXマザーには1本しか拡張スロットがないので、何に使うかはよく考えたいところ。地デジチューナーカードや高音質なサウンドカードなど、選択肢はほかにも多い。ただ、いずれを増設するにしても、その分ケースの内部は狭くなり、ケースによっては拡張カードが電源の吸気ファンなどをふさいでしまうものもある。冷却面だけで見ればMini-ITXマザーの拡張スロットは使用しないほうがよいのだ。幸い、最近のMini-ITXマザーは外部インターフェースが豊富で、内蔵グラフィックス機能も一般用途では不足のないレベルになっている。ストレージなども含めて、USBやeSATAポートなどに、拡張性を委ねるのも手だ。何でも内蔵したいと考えるのは、省スペースマシンとしてもっともなことだが、安全性重視の考え方として受け取ってほしい。
アップグレードの切り札
一つ使えるだけで夢が広がるPCI Express x16スロット。ただし、ケースによっては使えるように見えて、実際はかなり使いにくいものもある
外部に拡張性を求める
地デジチューナーもサウンド機能も、USB機器で拡張可能。2画面までのマルチディスプレイ環境なら、オンボードでほとんどのマザーが備えている
最有力候補はやっぱりビデオカード
なんだかんだ言っても、PCの基本性能アップにはやはりビデオカードが欲しい。しかし、CPU性能が伴わないならやめておくほうが無難だ。動画再生支援用などとして導入するのもよいが、その分ケース内部は圧迫され、発熱量も増えてしまう。それなら最初から内蔵グラフィックス機能のしっかりしたマザー(CPU)を選んでおくべきだろう。
GeForce GT 240搭載のエントリー向けビデオカード。内蔵グラフィックス機能よりは高性能だが、3Dゲームが快適に遊べるというほどではない。用途はしっかり見きわめよう
【検証環境:ケースによる各部の温度の違い】 マザーボード:ASUSTeK AT5IONT-I(Intel Atom D510+NVIDIA ION)、メモリ:UMAX CetusDCDDR3-4GB-1333(PC3-10600 DDR3 SDRAM、CL=9、2GB×2)、電源:各ケース付属品【検証環境:CPU温度】CPU:Intel Core i3-530(2.93GHz)、マザーボード:GIGABYTE GA-H55N-USB3(rev.1.0)(Intel H55)、メモリ:Corsair Memory XMS3CMX8GX3M4B1333C9(PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×4 ※2枚のみ使用)、電源:Reeven SCHWARZBERG PLUG-IN RPSB-500P(500W)、ケース:Lian Li PC-Q07R
【共通項目】 HDD:Western Digital WD Scorpio Blue WD5000BEVT(Serial ATA 2.5、7,200rpm、500GB)、OS:Windows 7 Ultimate 64bit版
【検証内容】 検証環境に示したパーツを各ケースに組み込み、HWMonitor 1.15にて各部の温度を測定。アイドル時はOS起動から10分後の値、高 負荷時はPCMark Vantageを動作させた際の最高値。室温25℃。