パーツの選択肢の広がりで性能はATX並みに進化した
「Mini-ITX対応PCパーツで構成する自作PCは、コンパクトで置き場所を選ばないが、性能が低く汎用性に乏しい」。数年前なら正しいとらえ方だったが、今となっては古い思い込みだ。
とくに注目したいのが、マザーボードとCPUの選択肢が大きく広がったこと。最近ではIntel/AMDの最新チップセットを搭載したMini-ITX対応マザーボードが続々と登場しており、4コアのCore i7シリーズや6コアのPhenomIIシリーズとの組み合わせすら可能だ。また、こうした最新マザーボードの多くはPCI Express x16スロットを備えており、ビデオカードの増設もできる。すでにATX製品と遜色のない基本性能を実現していると言っても過言ではない。
Mini-ITXケースのトレンドも変わった。従来は発熱が小さなシステム向けの薄型・小型ケースばかりだったが、最近では12cm角以上の大型ファンを搭載して冷却能力を強化したMini-ITXケースも登場している。高性能なCPUやビデオカードを組み込むと、内部に熱がこもりやすくなるが、こうした冷却重視のモデルを選べば安心して運用できる。
また、Mini-ITXプラットフォームの普及で、量産効果により対応パーツの価格が大幅に下がったことも見逃せない。Mini-ITX自作の敷居は大きく下がったと言ってもよいだろう。
なぜ今Mini-ITXなのか?
マザーボードの価格が下落
一昔前はATXマザーの2、3倍の価格が当たり前だったが、最近ではほぼ同等まで落ちており、買いやすくなっている。また、ケースも含めて対応製品自体が増加し、選択肢が増えたのもポイント
オンボード機能が充実
マザーボード全体に言えることだが、最近ではPCを使うために必要な機能のほとんどをオンボードで備えている。Mini-ITX製品でも拡張カードを増設しないと使用できない機能は少ない
【検証環境】Intel Core i7-870(2.93GHz)、マザーボード:GIGABYTE GA-H55N-USB3(rev. 1.0)(Intel H55)、メモリ:CFD販売 CFD ELIXIR W3U1333Q-2G(PC3-10600 DDR3 SDRAM 2GB×2)、ビデオカード:GALAXY Microsystems GF GT240 PCI-E 512MB DDR5(NVIDIA GeForce GT 240)HDD:Seagate Barracuda 7200.11 ST3320613AS(Serial ATA 2.5、7,200rpm、320GB)、CPUクーラー:Intel Core i7-870リテールクーラー、OS:Windows 7 Ultimate 64bit版、室温:26℃、アイドル時:OS起動5分後の値、高負荷時:3DMark06実行中の最大値
目的を絞り込んで構成を考えよう!
3Dゲームもやりたい
ハイパフォーマンスモデル
この構成では、発熱が大きい高性能なCPUやビデオカードを組み込むことになる。PCケース側に十分な冷却能力があるかどうか、長大なビデオカードを設置できるスペースがあるかどうかなどを細かくチェックしていこう。
構成例
・冷却重視ケース
(12cm角以上のファンを搭載、2スロットタイプのビデオカードに対応)
+
・高性能マザーボード
(クアッドコアCPUに対応)
+
・ミドルレンジビデオカード
(Radeon HD 5770/GeForce GTX 460など)
+
・ミドルレンジクアッドコアCPU
(Core i5-760/i7-870など)
+
・SSD
+
・500W以上のATX電源、
高性能CPUクーラーなど
地デジやBlu-rayを見たい
HTPCモデル
Blu-ray Discを見る程度であれば、高性能なパーツは必要ない。極端なことを言えば、IONを組み合わせたAtom搭載マザーボードでも十分だ。より発熱の小さいパーツを組み合わせ、静音性を高めたチューニングにするのもおもしろい。
構成例
・スリムタワーケース
(静音性と省スペース性に優れたもの)
+
・HTPC向けマザーボード
(HDMI、S/P DIF出力などを装備)
+
・省電力デュアルコアCPU
(Pentium G6950、Atom+IONなど)
+
・HDD/SSD
(静音性の高い2.5インチモデル)
+
・ACアダプタ電源
+
・Blu-rayドライブ、地デジチューナーカードなど
NASやサーバーとして使いたい
大容量ストレージモデル
3.5インチシャドーベイを多数搭載するケースを使えば、10~12TBという超巨大なストレージ領域を持つNASが作れる。CPUやグラフィックスは最小限の機能でよいが、3.5インチHDDを接続するためのSerial ATAポートの数に注意したい。
構成例
・ミニタワーケース
(3.5インチシャドーベイ4基以上、HDD冷却のための大型ファン搭載)
+
・RAID機能搭載マザーボード
(4基以上のSerial ATA端子、eSATA端子などを持つ製品)
+
・ローエンドCPU
(Atomなど省電力なもの)
+
・3.5インチHDD
(静かで発熱の小さい低回転モデルを複数)
+
・400W程度の静音電源など
拡張性には物理的な限界が
作成するマシンの目的を明確に
最近のマザーボードではサウンド、LAN、グラフィックス機能など、PCに必要とされる基本的な機能のほとんどをオンボードで搭載している。Webブラウズや書類作成程度に使うのであれば、わざわざ拡張カードで機能を追加する必要性はない。Mini-ITX対応マザーボードでもその傾向は同じと言ってよい。
ただ「PCゲームを快適にプレイしたい」、「地デジPCにしてたっぷり録画したい」など、日常作業よりもワンランク上の機能性を求める場合には、やはりなんらかの拡張作業は必要。そしてこの拡張性に関しては、やはりATX対応プラットフォームに劣る。Mini-ITX対応マザーボードが搭載する拡張スロットや同ケースが装備する拡張ベイの数は、ATX向けと比べるとやはり少なく、物理的にどうしようもない部分だ(外付け機器である程度補うことはできる)。
そのため、Mini-ITXで自作する場合には事前に目的をはっきり決めておく必要がある。その目的に合わせてパーツを選び、各パーツのスペックを確認していく作業が重要になる。たとえばPCゲームをやりたいなら高性能なCPUとビデオカードをきちんと冷却できるよう、PCケースの冷却能力をチェックする。たくさんのファイルを集めて管理するファイルサーバーPCを作りたいなら、PCケースのシャドーベイの数や、マザーボードが搭載するSerial ATAコネクタの配置や搭載数などを確認しよう。
今回は、Mini-ITX対応PCパーツを使った自作にチャレンジするユーザーに向け、お勧めPCパーツを紹介するとともに、実際にMini-ITX対応パーツを使って組み込み作業を行なう際の注意点を整理している。ポイントを踏まえ、コンパクトで高性能なPCを自作してほしい。