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TEXT:鈴木雅暢 |
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キーワードで理解する最新HDD |
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PCの普及、コモディティ化とともに、写真や映像、書類などの保存先としてますます重要な存在となってきたHDD。最新トレンドをキーワードごとに整理して解説しよう。 |
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最大容量の増加とGB単価 |
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HDDにとってもっとも重要で、かつニーズの高い要素は、何と言っても記録容量だ。われわれがPCで扱うデータ容量は常に増加していると言ってもよく、HDDには常に進化が求められている。その容量増加に関して、かつてはムーアの法則(半導体の集積度は18カ月で2倍になる)を超えるほどの飛躍的な伸びを見せたこともあったが、技術的な限界から伸び悩みを見せていた時期もあった。
下のグラフは各年末ごとの3.5インチHDDの最大容量をまとめたもの。順調に容量増加が進んでいるように見えるが、2003年の300GBモデルや2004年の400GBモデルはかなり特殊な存在であったし、2004年以降の各社大容量モデルのプラッタ枚数はほとんどが4枚と、2003年までの3枚よりも増えている。つまり、容量は増加したが、プラッタ1枚あたりの容量、記録密度の伸びは鈍いままだった。
プラッタを増やすことは消費電力増や製造コスト増につながるため、価格競争の激しいPC向けのIDE/Serial ATA HDDでは避けられてきた。それでもプラッタを増やしたのは、この間に大きなブレイクを見せた家電のHDDレコーダも含めて、それだけ大容量に対する需要が大きかったのだろう。実際、400GB、500GBといったモデルは、250~300GBに比べてかなり割高な傾向があった。
もっとも、そんな状況も2005年まで。この先の見通しは明るい。2006年春にはBarracuda 7200.10が登場。プラッタは4枚のまま、最大容量を一気に1.5倍の750GBにまで引き上げている。垂直磁気記録は、これまでの水平磁気記録が抱えていた技術的な問題を根本から解決するブレイクスルー。次の伸びも期待できる。
これを受けて500GBクラスモデルの価格が堅調に下がっており、昨年は4万円前後で販売されていた500GBモデルも、今では2万5,000円以下で買えるようになっている。コストパフォーマンスの目安となるGB単価(1GBあたりの価格)も、2005年末は75~80円/GB程度だったが、今では42円/GB前後にまで下がってきた。これは2005年時点の250~300GBクラスより低い。現在もっとも買い得な250GBクラスはさらに安く32円/GB前後だが、それとの差もかなり縮まった。500GBクラスの製品が標準になる日も近そうだ。 |
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垂直磁気記録方式を採用することで、プラッタ1枚あたり最大188Gbyte、ドライブあたり750GBの容量を実現したSeagate Barracuda 7200.10 |
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容量ごとのGB単価 |
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型番 |
容量 |
最安値 |
GB単価 |
Seagate Barracuda 5400.1 ST340015A |
40GB |
4,580円 |
114.5円 |
日立GST Deskstar 7K80 HDS728080PLA380 |
80GB |
4,680円 |
58.5円 |
Seagate Barracuda 7200.9 ST3120814A |
120GB |
6,804円 |
56.7円 |
日立GST Deskstar T7K250 HDT722516DLAT80 |
160GB |
6,094円 |
37.9円 |
Maxtor DiamondMax 10 6V200E0 |
200GB |
7,980円 |
39.9円 |
Samsung SpinPoint SP2514N |
250GB |
7,980円 |
31.9円 |
Western Digital WD Cavier SE WD3200JS |
320GB |
10,468円 |
32.7円 |
Samsung SpinPoint HD400LD |
400GB |
14,143円 |
35.4円 |
Maxtor DiamondMax 11 6H500F0 |
500GB |
21,070円 |
42.1円 |
Seagate Barracuda 7200.10 ST3750640A |
750GB |
40,680円 |
54.2円 |
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大容量化のカギを握る垂直磁気記録 |
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垂直磁気記録は、HDDの記録容量向上の切り札として、長年研究が続けられてきた重要技術だ。2006年には2.5インチHDDに続いて3.5インチ でも実用化され、記録容量の大幅な伸びを実現している。
HDDは、内部の円盤(プラッタ)上に磁化方向によってデータを記録している。磁化方向とは磁気の向きのことで、磁石の中ではS極からN極へと力が働いている。HDDが記録装置として役目を果たすには、磁化方向を長期間保たねばならず、これに必要なエネルギーを保磁力と言う。
磁性体を横方向に磁化する水平磁気記録では、常に隣の磁石どうしで磁束が反発してしまう(たとえば、N極とN極が隣り合う)。この隣からの磁束(反磁界)が保磁力を弱める大きな要因となる。さらに、磁性体の高密度化に伴って体積が小さくなると、保磁力も低下していく。一定以下になると、熱により磁化方向が変化する「熱ゆらぎ」という現象が起こり、これが深刻な問題となって、水平磁気記録での高密度化は伸び悩んでいた。
一方、磁性体を縦方向に磁化する垂直磁気記録では、原理的に隣り合う磁石の磁束どうしが引き付け合うため、熱ゆらぎの心配はない。磁性体の体積を保ったまま水平磁気記録より高密度化できるのもメリットで、極性部分がプラッタ上面を向いているため、漏れる磁束もよりクリアで、読み取りにも都合がよい。
もっとも、保磁力が強いほど、磁化方向を変えるために、より大きなエネルギーを必要とする。しかも、タテに磁化方向を与えなければならない。そこで導入されたのが単磁極ヘッドと、「磁化しやすいが磁気が残らない」特性を持つ軟磁性層を裏打ちしたプラッタである。これを利用して、メインポール側で記録層を貫通させる形でダイレクトに磁束へ磁化方向を与える。リターンポール側にも磁束は貫通するが、こちらは何十倍も大きいので磁束密度が低く、記録層の磁化方向に影響を与えないようになっている。
垂直磁気記録の原理は実にスマートだが、課題もある。なかでも重要なのは軟磁性層の特性だ。「磁化しやすいが、磁気が残らない」と口で言うのは簡単だが、実際にはまったく磁化が残らないというわけにはいかない。微量でも残ればノイズとして作用するため、理想に近い軟磁性層の製造が大きなポイントと言える。 |
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磁石の中ではS極からN極へと向く力が働いており、これが磁化方向だ。この向きがデジタルデータの0と1に相当する。磁石の外ではN極からS極へ向かう力が働いており、これを磁束と言う |
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磁化方向を横向きに与える方式。原理的に磁束が反発する磁石が並んでいくため、高密度化により磁石一つ一つを小さくしていくと磁気エネルギーが低下し、磁化方向を保つのが難しくなる |
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縦方向に磁化方向を与える方式。磁束どうしが引きつけ合い安定して並ぶため、高密度化しても磁化方向を保てる。棒磁石は縦に並べたほうが多く詰め込めるように、体積面でのメリットもある |
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HDDは、プラッタ上の磁石(磁性体)に磁化方向を与えることでデータを書き込む。水平記録では、磁石の左右どちらがS極(あるいはN極)かを決めることである。ヘッドはC字形の磁石に似て、N極とS極の間に漏れる磁束を利用し、磁化方向を変える |
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プラッタに裏打ちした軟磁性層(磁気を透過させる層)がポイント。メインポール側の磁束が記録層を貫通するときに磁化方向が決まる。リターンポール側はメインポールに比べて何十倍も大きいため磁束の密度が低く、記録層の磁化方向に影響を与えない |
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