最新のテクノロジが惜しみなく投入されるハイエンドマザーボード
ハイエンドマザーボードは、アッパーミドル以下の製品と比べて明らかに性質が異なる。価格競争が避けられないほかのクラスよりもコスト面の制約が緩い一方、それだけ付加価値による差別化が求められるからだ。オーバークロック、ゲーム、高品質設計など、付加価値の追求方法はさまざまだが、そういった競争のおかげでハイエンドマザーには最新のテクノロジを惜しみなく投入した製品が多い。その差別化の一環として定着しつつあるのが、ASUSTeKのR.O.G.(Republic of Gamers)、MSIのBig-Bangなどに代表される独自のプレミアムブランドだ。そうした思い切った製品展開による効果か、ユーザーにとっても魅力的な製品が相次いで登場しており、ハイエンドクラスは華やかでおもしろみのある市場になっている。
ハイエンドの象徴たるプレミアムブランドがある
ASUSTeKのR.O.G.、MSIのBig-Bang、EVGAのClassifiedシリーズなど、コンセプトを明確に打ち出したプレミアムブランドが存在。コストパフォーマンス重視のレギュラーモデルの競争から離れた製品開発ができる恩恵か、華やかで魅力のある高級感あふれる製品が生まれている
ハイエンドならではの高品質部品を実装
写真の導電性高分子固体電解コンデンサのように、ほかのクラスの製品にない特徴として、長寿命で負荷に対する耐性の高い部品を実装しているものが多い
極冷にも対応可能なBIOS設定項目を用意
ハイエンド以下のマザーボードでもOC項目の充実した製品は多いが、電圧設定の詳細さなどは明らかにレベルが違う
ハイエンドシステムは発熱に要注意
ハイエンドCPUやビデオカードを利用するハイエンドシステムでは、マザーボード上のVRMやチップセットも発熱が大きい。とくに高速システムバスや36レーンのPCI Express 2.0をサポートするIntel X58チップセットは高温になりやすく、最悪熱暴走してシステムがクラッシュするので、高負荷環境ではしっかりとした冷却が必要だ。ヒートシンクの性能、ファンが装着できるかなど冷却機構も意識して選びたい。
発熱の大きなX58チップセット ファン装着で温度は劇的に変わる
ASUSTeKのRampage III Formulaにはチップセットファンが付属する。これの装着の有無でX58の温度を比較してみると、効果はてきめんだった
ハイエンドマザーの種類その1
オーバークロック特化型
オーバークロック(OC)はハイエンドマザーの代表的な差別化要素で、OC関連機能をウリにする製品は多岐にわたる。ミドルレンジ/ローエンドマザーでもOCはできるが、あくまでもライトなものに過ぎない。BIOSでクロックを変更する機能があったり、手軽に試せる自動OCや簡易OC機能などを用意しているだけのことがほとんどだ。では、ハイエンドマザーは何が違うのかと言うと、作業性や優れたOC耐性を生み出すために、設計段階から取り組みが成されているのだ。EVGAのClassifiedシリーズなどはその典型で、デジタルPWMなどOC耐性向上のためにさまざまな技術が投入されている上、液体窒素を利用した極冷環境でも使えるスイッチ類やテスター端子など、実作業に役立つ機能を満載している。
EVGA
X58 SLI Classified
OC目的で設計されたVRM
高いOC耐性を実現するためにCPU用電源回路などに優れた部品を実装
OC用に用意されたオンボード機能
OC作業をストレスなく行なうためのスイッチやテスター端子の装備も定番
ハイエンドマザーの種類その2
ゲーム特化型
ヘビーなゲームを快適に楽しむためには高速なCPUやマルチGPUなどを組み合わせた高性能なシステムが必要だ。また、ゲームプレイ時は高負荷状態が長時間持続することもあり、高い信頼性も求められるが、これらはハイエンドマザーであれば、ほとんどの製品がクリアしている。
ただし、マルチGPU関連機能に関しては製品ごとの差が大きく、PCI Express 2.0 x16スロットの本数とそのレーン数には注意したい。とくに後者については、2-way構成時に16レーン×2とならずに8レーン×2と帯域が半減して性能を出し切れないものがあるからだ。そこで注目したいのが、nForce 200などのスイッチチップを搭載したマザーで、これを実装することでレーン数を擬似的に倍にすることができる。
GIGABYTE
GA-X58A-UD9
スイッチチップのnForce 200を搭載
16レーンのPCI Express 2.0を32レーンに拡張可能。写真のマザーは同チップを2基搭載し、4-way SLIを16レーン×4で実現できる化け物仕様だ
x16スロットを豊富に装備
3-way以上のマルチGPUを構築するのであれば、x16スロットの構成に気を配りたいところ
ハイエンドマザーの種類その3
耐久性特化型
安心して長く使いたい、あるいはとにかく品質のよいものが欲しい、そういう理由でハイエンド製品を選ぶユーザーは少なくない。実際、ハイエンドマザーボードはほかのクラスに比べてコストの制約が緩い分だけ実装部品の選択の自由度も高い。高品質部品の実装はOC耐性やゲーム環境における信頼性に通じることもあり、電源部のPower MOSFETやコンデンサなどに高品質な部品を利用し、長寿命や信頼性の高さをアピールする製品は多い。品質面を左右するのはやはり電源部。仕様が多様化しており比較はしづらいが、DrMOSやデジタルPWMの変換効率の高さは寿命面でも有利だろう。Hi-c CAP、ML-CAP、プロードライザといった高級部品の性能の優秀さも疑いのないところだ。
MSI
Big Bang-XPower
信頼性の高いチョークコイル
MSIのSFC(Super Ferite Choke)は低損失で変換効率に優れる高級部品
長寿命のコンデンサ
一般の固体コンデンサに比べて8倍の長寿命を誇るというHi-c CAP。稀少金属のタンタルを使用しており、耐熱に優れるほか性能も優秀
【検証環境】
CPU:Intel Core i7-930(2.8GHz)、マザーボード:ASUSTeK Rampage III Formula(Intel X58+ICH10R)、メモリ:Corsair Memory CMX8GX3M4A1600C9(PC3-12800 DDR3 SDRAM 2GB×4 ※3枚のみ使用)、ビデオカード:EVGA 01G-P3-1371-KR(NVIDIA GeForce GTX 460)、SSD:HANA Micron Forte plus HMSM064G-10(Serial ATA 2.5、MLC、64GB)、OS:Windows 7 Ultimate 64bit版
【測定条件】
アイドル時:OS起動後15分後の温度、高負荷時:OCCT Perestroika実行後10分後の温度、計測ソフト:AI Suite II